2024年中に受任した案件の統計及び実績等について、下記の通りご報告いたします。
受任実績レポート:2024年度
2024年度の受任割合は、日本人の配偶者(国際結婚に伴う配偶者ビザ申請)が全受任件数のうちの32%、短期滞在(交際相手や婚約者, 親族, 友人を招へいするためのビザ申請)が28%、永住者(永住権の取得申請)が8%、定住者(連れ子や離婚した外国人のためのビザ申請)が7%、その他の在留資格(就労系のビザ申請等)が11%、在留資格以外の業務が14%となりました。
許可率の統計:2024年度
2024年度の受任件数に対する許可率は97.6%で、不許可率は2.4%でした(12月末時点で審査が継続中の案件を除く)。許可率や不許可事例に関して非公開とする事務所が多いところ、弊所では安心してご相談・ご依頼できる環境づくりのため、またフラットな目線で数ある事務所の中から比較検討いただきたいという観点から、可能な限りの情報開示に努めています。
主な不許可事例:短期滞在ビザ
その1
ベトナム国籍者|事例類型:180日ルールの抵触
当事例の申請人と依頼者様は、語学学習アプリを通じて知り合われました。交際開始後、依頼者様がベトナム現地に複数回渡航し、申請人との対面や正式なプロポーズを済ませた上で、弊所での受任に至っております(当事例の来日目的:同棲体験)。しかし、申請人が2023年から2024年にかけて、自身の姉に会うため、短期滞在査証(親族訪問)で合計180日間、日本国内に在留していた事実を、弊所や依頼者様に秘密にしていた(来日歴に関して虚偽の申告をしていた)ため、“当該申請の帰国予定日から遡った1年間において、通算180日以上の日本滞在を認めない方針”(通称180日ルール)に抵触し、結果的に不発給となっております。なお、申請人に反省の意図が窺えたことから、現在は再申請に向けた準備を進めている段階であることを付記いたします。
その2
パキスタン国籍者|事例類型:対面歴
当事例の申請人と依頼者様は、SNS(マッチングサービス)を通じて知り合われました。交際関係に至ってから約2年が経過していたものの、未だ対面歴がなかったため、現地渡航後(対面後)の申請を推奨しましたが、なるべく早く来日してもらいたいという依頼者様のご意向を踏まえ、弊所での受任及び早期申請に至っております。ビデオ通話時のスクリーンショット等の関係性立証資料が限定的であった点、身元保証人である依頼者様ご本人の収入が同世代の平均額を下回っていた点、残高証明書及び在職証明書を添付できなかった(依頼者様ご本人の希望で提出を見送った)点が不発給の理由になったと考えられます。
その3
ミャンマー国籍者|事例類型:犯罪歴
当事例の申請人は過去、日本国内で不法残留(オーバーステイ)及び不法就労の前歴がありました。なお、当事例においては可能な限り審査が有利に働くよう、弊所主導のもと、反省文や嘆願書等の書面を整えた上で当該申請に臨んでおります。不法残留の期間が約30年と長期にわたっていた点、申請人が出国命令を受け帰国してから約10年間、依頼者様との対面がなかった点、メッセージアプリ等を用いた交流も約8年間途絶えていた点、双方の両親が2人の交際を認知していなかった点が不発給の理由になったと考えられます。
その4
フィリピン国籍者|事例類型:再申請
当事例の申請人は、在留資格「興行」で来日し、タレントとして活動していた際に依頼者様と出会われました。初回の申請は弊所が受任の上、無事に許可を得ていますが、2回目の申請時は、依頼者様ご本人が申請書類を準備・作成し不許可になっております。不許可のリカバー案件として3回目の申請を弊所で再受任しましたが、依頼者様の強いご意向で、6ヵ月間の“再申請待機期間”を経ずに半ばダメ元で当該申請に踏み切った(不許可通知の2ヵ月後に再申請を行った)点、申請人が最長の90日間有効の査証を切望された点が不発給の理由になったと考えられます。
その5
フィリピン国籍者|事例類型:再申請
当事例の依頼者様は、観光旅行でフィリピンに滞在していた際に、現地の飲食店:KTVで申請人と出会われました。初回から6回目までの申請は弊所が受任の上、無事に査証が交付されていましたが、7回目の申請時に不交付の結果となっております。依頼者様のご意向で、十分な間隔を置かないまま、連続して当該申請を行った(6回目の訪日を終えた1ヵ月後に7回目の申請を試みた)点に加え、依頼者様の預金額が直近で大幅に減少していた点も審査に影響したものと考えられます。
主な不許可事例:配偶者ビザ
不許可の案件はございません(昨年度から継続中の案件を除く)。
主な不許可事例:定住者ビザ
不許可の案件はございません。
主な不許可事例:就労系ビザ
不許可の案件はございません。
上記以外の申請(就労資格証明書交付申請等)に関しても、特筆すべき不許可の案件はございません(12月末時点で審査が継続中の案件を除く)。また、上記で紹介した不許可事例はいずれも、初回相談の段階で、事前に不許可・不発給のリスクや懸念事項等について誠実かつ真摯に依頼者様へお伝えしており、当該リスク等を承知いただいた上での受任に至っている旨、申し添えます。
行政書士による総括:2024年度
昨年度と同様、短期滞在ビザ申請においては、審査が裁量に大きく依存しているため、統一性に欠ける傾向が見受けられます。実際、上記に列挙した不許可事例よりも条件が不利であり、許可が期待しづらいと判断された案件の一部が円滑に許可されています(下表参照)。また、例年と同じく、過去にほぼ同一の条件下でビザが発給された事例が多数存在しているにもかかわらず、残念ながら発給に至らなかった事例もわずかに確認できました。
- オーバーステイ及び不法就労:インド嘆願書や状況説明書等を添付し許可
- 過去に難民申請歴有:タイ資料不足及び説明不足をリカバーし許可
- 本人に偽装認知歴有:中国裁判書類や反省文等を添付しリカバーの上許可
- 他事務所へ依頼し不許可:ナイジェリア申請基盤を整え直し再申請で許可
※公開可能な案件を一部抜粋
本件に関して弊所は、審査を所管する機関の違いが主要な要因であるとの見解を持っています。他のビザ(在留資格)とは異なり、短期滞在ビザは各国に設置された日本大使館・総領事館が審査を担当しており、これに対して、その他のビザはすべて日本国内の出入国在留管理局が審査を担います。この違いにより、短期滞在ビザ特有の問題として、申請者の国籍や居住地に応じて許可率にばらつきが見られるほか、同一国籍・管轄区域内においても、申請時点の国際情勢などの様々な要因が考慮され、微妙に異なる審査基準が適用されているものと推察されます。
短期滞在ビザの性質上、世界中で画一的な基準を策定することは困難であり、今後も同様の審査運用が継続されると解されます。弊所ではこうした背景を踏まえ、相談時においては蓄積した許可データを活用しつつ、短期滞在ビザの特性に即した適切なご案内を引き続き提供してまいります。
他方、配偶者ビザをはじめとする身分系在留資格に関しては、受任したすべての案件において、おおむね予見通りの結果を得ることができました。もっとも、配偶者ビザ申請に係る審査手続きに関しては、追加資料の提出を求められた事例が散見されます。典型例として挙げられるのが、「申請人または身元保証人の“審査期間中”の資力を立証する資料(例:金融機関発行の残高証明書や勤務先の給与明細書)」の追加提出を指示されるケースです。また、日本国内においてのみ婚姻が成立している、いわゆる跛行婚の状態で申請が行われた場合には、「海外側での婚姻手続きが進行中であることを裏付ける資料」の追加提出を求めてくる事例もしばしば見受けられます。これらの追加資料に関する通知件数や割合、要求される資料の内容については、2023年度と2024年度で顕著な差異は認められていません。
なお、初回の認定申請において最長の5年間の在留期間が付与された事例や、年齢差が50歳に及ぶ夫婦間の配偶者ビザ申請(認定申請)が許可された事例、婚姻関係が破綻した状況(注:離婚未成立)における告示外定住者ビザへの変更申請が許可された事例については、恐縮ながらも一定の評価に値すると考えております。
その他特筆すべき点として、入管局が管轄する短期滞在ビザの更新申請(延長申請)は例年に比べ審査基準が引き締められている印象を受けます。実際に東京出入国在留管理局へ赴き協議を行った体感としても、「行政手続法7条(申請に対する審査応答)に抵触しない範囲内において、申請自体の取り下げを促す場合がある」旨の言及が見られるなど、引き続き極めて取得難易度の高い申請になることが予想されます。親族訪問類型(例:在日親族の出産前後の生活補助)や病気・治療を目的とする更新申請であっても、相談時にはより慎重な調査・判断を要するものと解されます。
弊所は許可の見込みが低いと判断した案件に対しては、申請時期の延期を推奨し、その間に課題となる要素を改善するためのアドバイスを行うことが多々ございます。換言すると、我々から受任自体をお断りする案件も少なからず存在し、こういった方針から、弊所の許可率は昨年度も高水準で推移いたしました。今年度以降も誠実かつ正直に、公正な考えと強い倫理観をもって執務にあたることをお約束します。
おわりに
旧年中は多くのご相談・ご依頼をいただき、誠にありがとうございました。本年も、変わらず丁寧な対応を心掛け、日々の業務に取り組んでゆく所存でございます。まだまだ至らない点は多々ありますが、本年も引き続きご支援・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
行政書士 駒田 有司
行政書士 西川 諒