2023年中に受任した案件の統計及び実績等について、下記の通りご報告いたします。
受任実績レポート:2023年度
2023年度の受任割合は、日本人の配偶者(国際結婚に伴う配偶者ビザ申請)が全受任件数のうちの29%、短期滞在(交際相手や婚約者, 親族, 友人を招へいするためのビザ申請)が25%、永住者(永住権の取得申請)が10%、定住者(連れ子や離婚した外国人のためのビザ申請)が8%、その他の在留資格(就労系のビザ申請等)が16%、在留資格以外の業務が12%となりました。
許可率の統計:2023年度
2023年度の受任件数に対する許可率は98%で、不許可率は2%でした(12月末時点で審査が継続中の案件を除く)。許可率や不許可事例に関して非公開とする事務所が多いところ、弊所では安心してご相談・ご依頼できる環境づくりのため、またフラットな目線で数ある事務所の中から比較検討いただきたいという観点から、可能な限りの情報開示に努めています。
主な不許可事例:短期滞在ビザ
その1
中国国籍者|事例類型:犯罪歴
当事例の申請人は過去、本国で執行猶予付きの有罪判決を受けていました(犯罪内容については省略)。弊所による聴取ののち、通常の申請書類に加え、反省文及び嘆願書、判決書、説明書面等を添付しましたが、残念ながら不発給の結果となりました。執行猶予期間の満了から日が浅かったほか、依頼者様との間に20歳程度の年齢差があった点、最長の90日間有効の査証を希望された点、交際期間に対して対面回数が少なかった点も審査に影響したものと考えられます。
その2
中国国籍者|事例類型:犯罪歴
当事例の申請人は過去、日本国内で不法残留(オーバーステイ)及び不法就労の前歴がありました。なお、可能な限り審査が有利に働くよう、弊所から身元保証人の追加をご提案し、反省文や嘆願書等の書面を整え申請に臨んでおります。不法残留や不法就労のほか、申請人と依頼者様が交際関係であった一方で、申請人が別の女性と婚姻中であった点、申請人が本国へ帰国してから約15年間、依頼者様との対面がなかった点、約10年間メッセージアプリ等を用いた交流も行われていなかった点が不発給の理由になったと考えられます。
その3
パキスタン国籍者|事例類型:収入及び預貯金
当事例の申請人と依頼者様は、SNSを通じて知り合われました。交際開始後、依頼者様が現地に渡航し、申請人との対面及び申請人親族への挨拶を行った上で、弊所での受任に至っております。初回の申請(申請人に来日経験がない状況下)で最長の90日間有効の査証を希望された点、並びに90日間の滞在日数に対して年収(課税所得)が低額であった点、交際開始日から申請までの期間が短かった点が主な不許可理由と考えられます。
その4
フィリピン国籍者|事例類型:再申請
当事例の申請人は、在留資格「興行」で来日し、エンターテイナー(タレント)として活動していた際に依頼者様と出会われました。初回の申請は弊所が受任の上、無事に許可となりましたが、なるべく早く再来日してもらいたいという依頼者様のご意向を踏まえ、短期滞在査証で訪日中に再申請(2回目の短期滞在査証申請)の着手に至りました。十分な間隔を設けずに連続で当該申請に踏み切った(初回の短期滞在査証期限満了後の翌日に再申請を行った)点に加え、過去にエンターテイナーとして中長期間日本に滞在していた点も審査に影響したものと考えられます。
その5
フィリピン国籍者|事例類型:難民申請
当事例の申請人と依頼者様は、第三者の紹介を通じて知り合われました。申請人が本国に帰国してからも、依頼者様は友人関係を構築されており、同人との日本国内での商談及び観光を希望されていたため、弊所での受任に至っております。申請人が過去、日本国において、特段の理由なく難民認定申請を行い就労活動に従事していた(偽装難民とみなされ得る申請を行った)前歴を有していた点が審査に影響したものと考えられます。
主な不許可事例:配偶者ビザ
その1
スウェーデン国籍者|事例類型:収入及び預貯金
当事例の申請人と依頼者様は、婚姻後長らくスウェーデン国内にて生活を営んでおりましたが、諸事情で生活の拠点を日本へ移す運びとなり、弊所での受任に至りました。海外在住中の配偶者ビザ申請(査証事前協議制度を利用しない配偶者ビザ申請)においては、日本在住の身元保証人が実務上求められるところ、当該保証人が極めて高齢で身元保証の履行が望めなかった点、及び夫婦双方がスウェーデン本国で無職であり、かつ預貯金等の資産も有していなかった点が審査に影響したと解されます。なお、当事例に関しては、身元保証人の変更交渉がまとまり、また依頼者様が就職内定をいただき状況が好転したことから、再申請を行い最終的に無事許可をいただいております。
上記以外のビザ申請(各種在留資格申請)に関して、特筆すべき不許可の案件はございません。また、上記で紹介した不許可事例はいずれも、初回相談の段階で、事前に不許可・不発給のリスクや懸念事項等について誠実かつ真摯に依頼者様へお伝えしており、当該リスク等を承知いただいた上での受任に至っている旨、申し添えます。そのほか、定住者ビザや永住者ビザ、就労系ビザに関しては、すべての申請が許可となっております(12月末時点で審査が継続中の案件を除く)。
行政書士による総括:2023年度
コロナ禍以前と同様、短期滞在ビザ申請に関しては自由裁量の側面がやや強く、審査の統一性に欠ける印象を受けました。実際、上記に列挙した不許可事例よりも条件が芳しくなく、許可の見込みが非常に低いと判断した一部の案件がスムーズに許可されています(下表参照)。また例年と同じく、限りなく同じ条件でビザが発給された事例があるにもかかわらず、残念ながら発給に至らなかった案件もごく少数ながら散見されました。
- オーバーステイ及び不法就労:インドネシア嘆願書や状況説明書等を添付し許可
- 本人に虚偽申請歴有:ベトナム反省文等を添付しリカバーの上許可
- 過去に難民申請歴有:スリランカ資料不足及び説明不足をリカバーし許可
- 他事務所へ依頼し不許可:ミャンマー依頼者様の申請状況を整え直し再申請で許可
※公開可能な案件を一部抜粋
この件について、弊所は審査の管轄そのものが主な原因になっていると結論付けています。短期滞在ビザは、他のビザと異なり、各国にある大使館・領事館が審査を担います(その他はすべて日本国内の出入国在留管理局が審査)。そのため、申請人(外国人側)の国籍によっても許可率のばらつきがあり、また同じ国籍者の間でも、国際情勢等あらゆる事情を勘案し、微妙に異なる審査基準が適用されているものと解されます。
ビザの性質上、画一的な基準を設けることは相応の困難が予想されるため、今後も前述のような運用がなされると思われます。引き続き、ご相談時においては短期滞在ビザの特殊性を踏まえた上で、保有している許可データ等を参照しながら、正確なご案内に努めてゆきます。
他方、配偶者ビザ等の身分系在留資格(大使館・領事館管轄を除く入管局管轄の申請)については、すべての受任案件においておおむね予想通りの結果となりました。前年度の配偶者ビザ申請は、認定申請・変更申請ともに、追加書類の提出通知を受けた案件数が前々年度より減少しており、また初回の更新申請で3年の在留期間を付与された案件数は僅かながら増加傾向にあり、これらの結果に関しては、手前味噌ながら一定の評価に値するものと考えております。
その他特筆すべき点として、老親扶養ビザ(在留資格:特定活動)は年々間口が狭くなっており、実際に審査官との協議を行った体感としても、引き続き極めて取得難易度の高い申請になることが予想されます。加えて、入管局が管轄する短期滞在ビザの更新申請(延長申請)においても、例年に比べ審査基準が高くなっている傾向が見受けられ、たとえ親族訪問類型の更新申請であっても、相談時にはより慎重な調査・判断を要するものと解されます。
弊所は許可の見込みが低いと判断した案件に対しては、申請時期を後ろ倒しさせ、その間にネックとなっている要因の改善を図るようアドバイスするケースがしばしばございます。換言すると、我々から受任自体をお断りする案件も少なからず存在し、こういった方針から、弊所の許可率は昨年度も高水準で推移いたしました。今年度以降も誠実かつ正直に、公正な考えと強い倫理観をもって執務にあたることをお約束します。
おわりに
旧年中は多くのご相談・ご依頼をいただき、誠にありがとうございました。本年も、変わらず丁寧な対応を心掛け、日々の業務に取り組んでゆく所存でございます。まだまだ至らない点は多々ありますが、本年も引き続きご支援・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
行政書士 駒田 有司
行政書士 西川 諒